本を読むことが苦手な子どもだった。

じっと我慢して長い時間集中することが苦手で、どちらかと言うとすぐに結論が出る算数が好きだった。当時、計算ドリルと言う計算をするような問題集があり、学校に行くと朝一番に計算ドリルの1頁を計算しなければならなくて、計算が得意だった自分は1頁ではなく10頁ほどを終わらせていた。だから、計算ドリルを渡されると1週間ほどで全部完了してしまっていた。

計算ドリルとは違って、漢字ドリルがあって、本を読むことが苦手だった自分は、いつも漢字テストは最下位だった。本を読まないのだから漢字も覚えられなかった。

とても偏った勉強しか出来なかったので、クラスの中でも全体の成績は良くなかった。

中学校に上がり、1年生の時に同じクラスになった友人が、長編小説の文庫を貸してくれて、本を読まないことを言えず、とりあえず借りることになった。「とても面白いから読んでみて」と言われ、自分なりに考え、返す時には感想を言わなくてはいけないかなと思っていたので、とりあえず最初と最後は読まなくてはと本を開いてみた。

とても面白かった。とにかく夢中で借りた文庫を読んだ。

この出会いが、この後の自分を変えることになった。

今でも時々その頃のことを思い出す。あの時、同じクラスの友人が本を貸してくれなかったら、今でも本を読んでいろいろなことを繙くことなど出来なかったように思う。本を読むことが、これほど楽しく、面白いことであることを知らずに大人になっていたかもしれない。あの時、友人と同じクラスになっていなかったら、今の仕事も出来なかったと思う。あの日のあの瞬間が、自分の転機だったのかもしれない。それ以前の自分しか知らない友人たちは、自分がシステムエンジニアの仕事が出来るはずがないと思っているに違いない。

それくらい勉強が嫌いだった。

今でも記憶力はあまり良くない。でも、誰かが記してくれたものを繙くことは出来る。

あの日、教わった本を読むことの楽しさが、今も役立っている。